クーラーの新製品で簡易水冷モデルが多くなってきてますし、最近の自作PCでは水冷のニーズが高まっていますよね!
CPUのメニーコア化がここ数年で進んだ一方、消費電力も増えてしまったので、なかなか空冷では冷却しきれない発熱量になってきたというのもあるし、魅せるPCの流行というのも理由の一つにあるのかなと思ってます。
簡易水冷でも大型ラジエータモデルならハイエンドCPUを十分冷やせますが、オーバークロックの常用など、より冷却性能を上げたい人や、見栄えのオリジナル感に差をつけたい人には是非、本格水冷をオススメしたいです!
私は2015年に本格水冷を始めてその魅力に取りつかれて以降、自作PCすべて本格水冷にしてきたので、布教も兼ねてこれから挑戦してみたい人向けの入門ノウハウをまとめてみようかなということで、まずシリーズ第1弾として、今回は冷える仕組みと各パーツの役割をご紹介しようと思います。
概要構成
本格水冷は複数の装置をチューブとフィッティングで繋いで、クーラント(冷却水)をループさせます。
基本ループをわかりやすく図にしてみました。
各パーツの役割
パーツにはそれぞれ役割があるためそちらを順にご説明していきます。
各パーツの選び方などの詳細については続編でご紹介する予定です。
水枕(ウォーターブロック)
水枕はCPU、GPU、VRM、チップセット、メモリ、NVMe SSDなど熱の発生源に取付け熱を奪う役割です。多くは熱伝導率の高い銅製で出来てます。ただし銅は10円玉でご存知のとおり酸化して黒ずんでくるので、見栄えを良くするためにニッケルメッキコーティングされたものが人気となっています。
また、最近はあまり見かけませんがアルミ製のものもあります。アルミは銅より熱伝導率は劣るものの軽いという特徴があります。
CPUやGPUに取付ける水枕は空冷クーラー同様に、サーマルグリスで密着させます。
VRM、チップセット、メモリ、NVMe SSDなどはサーマルパッドで密着させるのがほとんどです。
水枕のクーラントが流入する部分にはジェットプレートやマイクロフィンと呼ばれる経路を細くする加工により、流速が上がる工夫がされています。
これにより熱源から水枕へ移動した熱を、クーラントが素早く運び出すことができるようになっています。
ラジエータ
ラジエータは水枕から出てきた温まったクーラントの温度を下げる放熱器です。
内部のフラットチューブ内をクーラントが流れ、放熱フィンで温度を下げます。
フラットチューブ、放熱フィンはどちらも銅、アルミの製品が多いです。フラットチューブ、放熱フィンどちらも銅で出来ているフルカッパー製品は冷却力に優れますが重たくなります。
PCの水冷で使用されるのはアクティブラジエータというタイプで、そのままでは温度をほとんど下げれません。
ラジエータの表面に冷却ファンを装着し、放熱フィンの隙間を風が通り抜けることで放熱します。
つまり水冷といっても、ラジエータで温度を下げるのはフィンから熱を奪う風(=空気)なので、室温以下まで冷却することはできません。夏場にエアコンのついていない部屋では冷却力が落ちてしまいます。
また、ラジエータをPCケース内に設置する場合、室温が低くてもケース内へしっかりと冷たい空気が送れていないと冷えません。PCケースが遮音仕様の窒息ケースの場合は注意が必要です。
クーラントの温度を素早く室温付近まで下げるにはラジエータのサイズを大きくしたり、風速を上げる(=放熱フィンが浴びる風量を増やす)のが効果的です。
リザーバ
リザーバはこのあとご説明するポンプへ円滑にクーラントを送るための貯水タンクです。クーラントの主成分は水なので長い間使用していると徐々に蒸発して減ってしまうため、経路へクーラントを補充するためのバッファの役割です。
よく「リザーバを大きくしてクーラントの量を増やすと冷える」と説明されていることもありますが、リザーバに冷却する機能はないので関係ありません。
そのように誤認されるのは、量が多いと温度の上昇が緩やかになるからではないかと思います。ヤカンでお湯を沸かすのにかかる時間が水の量で変わるのと同じです。
それは逆に言えば、量が多いと温度が下がるまで時間がかかります。
少ないと熱しやすく冷めやすい、多いと熱しにくく冷めにくいということです。
もしラジエータを設置せずに水冷を組んだ場合、リザーバにある冷たい水のストックでしばらくは冷やせますが、以降は温まったクーラントが循環して戻ってくるので冷却力は下がっていきます。水枕を取り付けるようなパーツは常に熱を発するため、しばらくの間だけ冷やせてもあまり意味はありません。なので、クーラントの量を無駄に増やしてもコストがかかるだけになってしまうので注意してください。
冷却力を上げるのであれば、先に説明したラジエータのサイズや、このあと説明するポンプの性能のが重要です。
ただ、リザーバいっぱいまでクーラントを入れることは別の意味で重要で、空気が多いと内圧が変化し易く水漏れのリスクが増えます。
水は温まっても膨張しませんが、空気は膨張します。内圧が高くなるほど外に出ようとする力が強くなるので、最悪の場合はリザーバにヒビが入ったり、割れたりします。またそこまで至らなくてもジワジワとフィッティングの隙間などからクーラントが漏れる原因にもなります。特に冬場はPCの電源を入れる前後でリザーバ内の温度差が大きくなります。
見栄えで大きいリザーバを選びたいなどの理由がなければ小さめのリザーバにいっぱいまでクーラントを入れるのがオススメです。
なお、内圧を調整する専用のパーツもあるのでそちらを使えばいっぱいまで入れなくて済みます。
ポンプ
ポンプはクーラントに流れを発生させ、循環させる役割です。
ポンプ単体ではフィッティングと接続できないので、必ずカバーとなるハウジング(ポンプトップとも呼ばれる)が必要です。写真は透明アクリルのハウジングが装着してあるものです。
リザーバとハウジングをチューブで繋ぐ手間や経路を短くするため、リザーバ + ハウジング一体型の製品もありますし、リザーバ + ハウジング + ポンプ一体型もあります。組み立てが楽でコンパクトになることから人気もあり、新製品は3つ一体型が多くなってます。3つ一体型はリザーバ・ポンプ一体型あるいはリザポン一体型と呼ばれハウジングまで意識されないことが多いです。
ポンプの話に戻ると、現在は遠心ポンプが主流で、さらに大別すると四角い形状のDDC、円い形状のD5があります。
それぞれハウジングの形状が異なるため、ポンプ単体で購入した場合はハウジングあるいはリザーバ + ハウジング一体型を別途購入する際にDDC用、D5用という表記に気をつけてください。
そういったパーツ間の互換性を考えなくてよいという意味でも最初はリザポン一体型を購入するのがオススメです。
DDC、D5いずれも簡易水冷に取付けられているポンプよりは強力ですが、それは水を押し出す力だけで、引き込む力はかなり非力です。ハウジングがクーラントで満たされてないと、ただ空回りするだけなので、リザーバから常に供給してあげる必要があります。
ポンプの性能を示す指標は、水を上に揚げれる高さを表す「揚程」と、単位時間あたりに流すことができる量(最大値)を表す「流量」があり、パワーとスピードという理解で良いと思います。
流量が多いほど早くたくさんのクーラントを運ぶことができ、水枕から熱を奪うスピードもあがります。ただし、全ての経路をポンプと同じ高さの位置に揃えることは難しく、水枕やラジエータの設置場所の都合などで上りとなる経路が必要となりますし、見栄えを重視することで余計な経路やカーブは増えがちです。さらには水枕のジェットプレートやマイクロフィン、ラジエータ内経路のフラットチューブによって、一部の経路が細くなり流れの抵抗が増えてしまいます。抵抗のある個所が増えるほど流量は減ってしまうため、表記された最大流量で実際に流すことはまずできません。
ラジエータや水枕を複数取付けたり、上りの経路が多い場合は、むしろ揚程(パワー)を重視する方が流量を維持してくれるのでオススメです。
ラジエータを複数設置したのに冷えない場合は、上り経路が多かったり、複雑すぎたり、流量を低下させるパーツが多すぎることが考えられるので、ポンプを2つに増やすか、水冷システム自体を2系統に分ける(CPUとGPUで別ループ)などを検討してみてください。
国内で入手性の高いEK製(中身はXylem社製のLaing)はDDC3.2が揚程5.2m、流量1000L/h、D5は揚程3.9m、流量1500L/hとなっています。
また、D5互換のメーカー独自ポンプは、D5用のハウジングが使え、性能は同等あるいはより高性能なモデルもあります。
簡易水冷はというと、ほとんどスペックは非公開ですが、大半のOEM元であるAsetekの第5世代ポンプは揚程のみ公開されており、2.14mとなっています。(最新第6世代は不明)
フィッティング
各装置とチューブを連結するのが主な役割ですが、経路に角度をつけたり、延長させたり、分岐させたりと、形状や用途は様々です。素材は真鍮をメッキ加工したものが多いです。
基本的に水冷装置はクーラントのIN、OUTの出入口があるため、水枕 x1、ラジエータ x1、リザポン一体型 x1の最小構成の場合、最低限 2(IN、OUT) x 3(装置数) = 6つのフィッティングが必要になります。
ここでは各装置とチューブを連結するオーソドックスなフィッティングのみご紹介し、続編にてより詳細な種類や名称をご説明予定です。
装置側との接続はG1/4ネジという規格で標準化されており、チューブ側の接続はコンプレッション(フェルールレス)というのが主流です。
ソフト、ハードどちらもチューブの太さ(口径)は多数あるため、口径にあったフィッティングでないと連結できなかったり、シーリングがきちんとされずクーラントがリーク(漏れ)してしまうので、必ず口径にあったフィッティングを使用してください。
ソフトチューブ用は内径(ID)と外径(OD)の両方のサイズが合うもの、ハードチューブ用は外径(OD)のみサイズが合うものを選びます。
O-リングはゴムでできているため何度も付け外しすると摩耗します。O-リング単体も売られているため、使いまわしが3度目くらいになったら、交換するのがオススメです。なお、ハードチューブ用コンプレッション内側のO-リングは交換できない製品がほとんどなのでフィッティングごと買い替えが必要です。
チューブ
各装置間をつなぐ経路の役割で、連結には先に説明したフィッティングが必要になります。
大きく分けてソフトチューブとハードチューブ(ソリッドチューブ、リジッドチューブとも呼ばれる)の2種類があります。
ソフトチューブはPVC(ポリ塩化ビニル)などの素材でできており、写真のように柔らかく曲げることができます。
ハードチューブはPETG(ポリエチレンテレフタレートをグリコール変性させて強化した素材)や、アクリル、真鍮などがあり、いずれも硬質なのでそのままでは曲げることができません。パイプカッターで切断して90°や60°などの向きを変えるフィッティングと連結して使用します。またPETGとアクリルはヒートガンで熱することで自由に曲げることができます。真鍮は金属用チューブベンダーを使って力で曲げたり、バーナーなどで熱して曲げたりできますが、加工難度が高いため、あらかじめ90°に曲げてあるものも売られています。
チューブの太さは多数あり、メーカーによってインチ径だったりミリ径だったりします。
先に説明したとおりフィッティングと口径を合わせないとならないため、フィッティングのバリエーション(カラーやメーカー)が豊富な口径をご紹介しておきます。
(表記は内径 x 外径です)
種類 | 口径 |
---|---|
ソフト | 3/8in x 1/2in(10mm x 13mm) |
3/8in x 5/8in(10mm x 16mm) | |
1/2in x 5/8in(13mm x 16mm) | |
1/2in x 3/4in(13mm x 19mm) | |
ハード | 10mm x 12mm |
10mm x 14mm | |
12mm x 16mm | |
3/8in x 1/2in | |
1/2in x 5/8in |
ソフトはある程度柔軟性があるため、チューブとフィッティングでインチとミリを混在しても口径が近似していれば接続することが可能です(もちろん揃える方がトラブルが少なくベストではあります)
一方、ハードチューブはキツすぎてチューブが入らない、もしくは緩すぎてクーラントが漏れてしまうため、絶対にインチとミリを揃えましょう。
ハードチューブは加工や組込み、メンテナンス時の取り外しが大変ですが、直線的な経路でスマートな見栄えとなるため、昨今の「魅せるPC」には人気となっています。
逆にソフトは柔軟性があるため、パーツ交換のし易さや、メンテナンス性重視にオススメです。ただし、何度も同じソフトチューブを使いまわすと口径が広がってきてしまいシーリング力が弱まってリークの原因にもなるので注意が必要です。
理想的なループのパーツ順
クーラントを循環させるパーツの順番は、各役割を理解された方なら、もうおわかりかもしれませんが、①水枕→②ラジエータ→③リザーバ→④(ハウジング)ポンプです。
水枕から熱を奪ったクーラントは温かいため、素早く冷却しなければ水冷ループ全体の温度が上がってしまいます。したがって水枕の直後はラジエータを通すのが理想的です。
また、ポンプ自体は熱に強いですが、ハウジング部分が樹脂素材のため60℃くらいまでに抑えないと変形したり割れたりする可能性があります。そういう意味でもポンプを通る前にラジエータで冷やしてあげるのが安全です。
リザーバは経路内のクーラントが足りなくならないよう補充できれば、どこにあっても問題ありませんが、経路を組み上げた直後はクーラントが満たされておらず、ポンプを回してもクーラントを引き込めません。なのでハウジングに直接クーラントを補充できるようリザーバは(ハウジング)ポンプの直前になります。
リザポン一体型タイプの構造もリザーバ→(ハウジング)ポンプの順になっています。
基本ループに装置を追加する応用ループの一例もご紹介しておきます。
2か所の熱源をしっかり冷やす構成
・(GPU)水枕→ラジエータ→(CPU)水枕→ラジエータ→リザーバ→ポンプ
・(GPU)水枕→ラジエータ→ポンプ→(CPU)水枕→ラジエータ→リザーバ→ポンプ
後者はデュアルポンプなので、ハイフローな構成です。流量は多いほうが良く冷えます。
2ヵ所の熱源をコスパよく冷やす構成
・(GPU)水枕→(CPU)水枕→ラジエータ→リザーバ→ポンプ
GPUから熱を奪って温まったクーラントがそのままCPUの冷却へ向かうため、先ほどの構成より冷却力は劣ります。ただ、PCゲームや動画エンコード中はGPUがメインで動作し、レンダリングやRAW現像はCPUがメインで動作といったように、両方同時にフルパワーで動かすことはほとんどないと思います。
PCをどう使うかにもよるところですが、本格水冷の初期導入コストを抑え、徐々に拡張していきたい場合にオススメです。
熱源をすべて水冷化する構成
・(NVMe SSD)水枕→(GPU)水枕→ラジエータ→ポンプ→(CPU、VRM、チップセット)一体型水枕→(メモリ)水枕→ラジエータ→リザーバ→ポンプ
最近はチップセットまで一体となった水枕(モノブロック)が売られてないので、GIGABYTE WATERFORCEシリーズやASRock AQUAシリーズといった、マザーボードメーカー純正の一体型水枕が搭載されたフラッグシップモデルしか実現できないかもしれませんが、冷却が必要なパーツ全てを水冷化することも一応可能です。
第1回からすごいボリュームになってしまいましたが、いかがでしたでしょうか。
これから本格水冷を始める方の少しでも役に立ったら幸いです。
次回は本格水冷を導入する前の確認ポイントをご紹介しようと思います!
シリーズ記事
・自作PC 初めての本格水冷ガイド④ ソフトチューブループの作業手順
・自作PC 本格水冷ガイド Extra ハードチューブループの作業手順
・自作PC 本格水冷ガイド ExtraⅢ ラジエータファン Push? or Pull?