昨今の本格水冷は見栄えの良さに注目が集まっていますが、空冷クーラーとのアドバンテージは冷却性能の高さでもあります。
本格水冷の冷却性能を高めるには様々な要素があり、なかでもラジエータに取り付けた冷却ファンの風圧・風量やポンプの揚程・流量は回転数で制御することができ、一般的には高回転にすることで冷却力は上がると言われています。
しかし、高回転にすればするほど騒音が大きくなるため、できるだけ静かに運用したい人であれば、回転数は小さくしたいと思うでしょう。
冷却力と静音性のバランスは個々に使用するパーツで変わるものの、ある程度の目安になるのではないかということで、今回は環境を揃えて回転数の違いによる冷却性能をチェックしていきたいと思います。
検証環境の紹介
ケース | STREACOM BC1 Open Benchtable |
---|---|
OS | Windows 10 Pro May 2020 Update |
マザーボード | ASRock Z490 AQUA |
CPU | Intel Core i9 10900K (非殻割) |
CPUグリス | Thermalright TFX |
メモリ | GALAX HOF OC Lab Master DDR4-4000 8GB x2 |
ビデオカード | ZOTAC GAMING GeForce GTX 1650 Low Profile |
ストレージ | Intel Optane SSD 905P(SSDPED1D960GAX1) 960GB |
電源ユニット | Seasonic FOCUS Plus Platinum 850W |
電源ケーブル | Custom CableMod Cable |
リザーバ/ポンプ | EK-Quantum Kinetic FLT 120 D5 PWM D-RG - Plexi |
ラジエータ | Alphacool NexXxos UT60 Full Copper 360mm |
ラジエータファン | Cooler Master MASTERFAN SF120M x3基 |
水温計 | Bitspower Touchaqua Digit thermal sensor |
水冷システムケース | アルミフレームで自作 |
今回用意したポンプは国内で入手しやすいEKWBのD5ポンプ、最大流量1500L/h、最大揚程3.9mになります。
冷却ファンはCooler MasterのSF120M風量35~62CFM、風圧0.93~2.40mmH2Oです。
レギュレーション
発熱量が多いほど、冷却性能差が出やすいことを想定し、CPUは10900KをAll Core 5.2GHz、Cache 5.0GHz、Vcore 1.35Vにオーバークロックしています。
冷却ファン、ポンプはASRockマザーボードのBIOS画面よりFAN-Tastic Tuningで各回転数に固定。
温度計測にはCPUに100%負荷を与えるストレステストを30分間実施しました。ソフトウェアはCPU-Z Ver1.93.0を使用。
CPU温度の記録にはHWiNFO64 v6.29-4235のログ取得機能を使用。
室温 | 室温計 25.2℃ |
---|---|
水温 | 水温計 26℃ |
ファン回転数 | 750/1000/1500/2000RPM |
ポンプ回転数 | 800/1000/2000/3000/4000/4800RPM |
ファン回転数別の検証ではポンプ回転数を4000RPMで固定。
ポンプ回転数別の検証ではファン回転数を1500RPMで固定。
室温はエアコンで25.2℃をキープ。
水温はBitspower Touchaqua Digit thermal sensorで監視し、ストレステスト開始時は26℃に調整しています。
冷却ファン回転数による温度変化
まずは冷却ファンの回転数から見ていきましょう。
回転数が小さくなるにつれて温度が上昇しているのがわかります。
次は回転数別に30分間の平均と最大温度を見てみましょう。
回転数の違いによって段階的に2~4℃違うことがわかると思います。
今回のケースでの最小最大では平均温度比で8℃も差がありました。
もう少し突っ込んで考察すると、750RPMと1000RPMの回転数は他と比べて250RPMの差しかありませんが、温度差は他より開いてるといえます。
本当は最小回転も500RPMにできれば等間隔の回転数に対する温度低下の傾きが、もっとわかりやすく表れたと思いますが、使用したファンが750RPM以下には設定できませんでした...
おそらく傾向としては下のイメージグラフのように、回転数の増加に対して温度低下は逓減する(効果が鈍くなる)と思います。
これは回転数の増加に対して風量が比例して増えないことや、室温との温度差によってラジエータのフィンから空気への熱移動の速さに限界があるなど、要因はいくつかあるのではないかと考えています。
筆者は物理に詳しくないため理論的な証明ができず申し訳ない...
検証結果としては、高回転にすればするほど無制限に冷えるとはいかないまでも、一般的な1000RPM~2000RPMの範囲で考えれば回転数による冷却力への影響は結構大きいため、冷却性能を重視したい人は騒音の許す範囲内で回転数を上げておけ!と言えると思います。
よく本格水冷は低回転でも冷えると言われていますが絞りすぎにはご注意を。
なお、今回と観点は違いますが以前に冷却ファンの向きを吹き付け方向と吸出し方向でどちらのが冷えるのか検証したことがあるので、興味のある方は合わせて読んでいただければと思います。
👉自作PC 本格水冷ガイド ExtraⅢ ラジエータファン Push? or Pull?
ポンプ回転数による温度変化
続いて、ポンプの回転数の結果を見てましょう。
回転数が小さくなるにつれて温度が上昇しているのがわかります。
次は回転数別に30分間の平均と最大温度を見てましょう。
回転数が3000RPMまでは段階的に1~2℃違いはでていますが、3000RPM以降では変化が見られません。
今回のケースでの最小最大では平均比で5℃の差となりました。
回転数に対する温度低下のイメージグラフとしては、ファンのときと比べると傾きは緩やかになります。
ファンのときと同様に回転数の増加に対して流量が比例して増えない可能性や、クーラントと水枕の受熱ベースとの温度差によって熱移動の速さに限界があると考えられます。
流量についてはデジタル式フローメーターを取付ければ確認できたかもしれませんが、検証時には注文中で手元になかったため、別の機会に確認できれば追記することにします。
-2020.08.29 追記-
Thermaltake Pacific TF2 Temperature Sensorが届いたためポンプ回転数による流量の変化をチェックしてみました。
回転数の増加に対して流量が比例しない懸念がありましたが、実際はしっかりと流量の増加を確認できました。
つまりポンプ回転数3000RPM以上で流量を増やしても温度が変化しなかったのは、ラジエータから放出する熱移動が限界に達していて水温が下がらない=水枕の受熱ベースからクーラントへ熱移動する効率も上がらない状態になったからと推測されます。
実際、30分間ストレステスト終了後の水温は2000RPMで34℃だったのに対し、3000RPM、4000RPM、48000RPMは31-32℃とほとんど変わっていませんでした。
ポンプ回転数による冷却力の伸びしろを増やすには、検証で固定していた冷却ファン回転数を上げたり、より大きなラジエータに交換する、室温を下げるといった方法で熱移動の上限を引き上げられると考えます。まあそれでも限界はありそうですが...
-2020.08.29 追記ここまで-
検証結果としては、一定回転数以上で冷却性能アップは見込めなくなるものの、その上限までは決して無視できない効果があると言えると思います。
冷却力を上げたいけど最大回転の運用は騒音もしかり、リークリスクやポンプ寿命など精神衛生上よろしくないという方は、70~80%程度の回転数にしておくと良いでしょう。
もちろん各ビルドによって流量は変わるため、スイートスポットは100%から徐々に回転数を絞って見つけるのがベストです。
なお、昨今の簡易水冷は優秀になってきたとはいえ、ポンプが小さく、かつ回転数も最大3000RPM前後と非力なため絞るのはあまりオススメしません。
いかがでしたでしょうか。
回転数を上げれば冷えることはわかってはいましたが、特に冷却ファンの温度差には筆者自身驚かされました。
正直2~3℃くらいしか変わらないでしょとか思ってメイン機は800RPMまで絞ってたので、改めてチューニングせねばと思いました。
また、今回は回転数だけに着目したものの、冷却ファンは同じ回転数でも製品によって風圧(静圧)・風量が結構違います。
風量も大切ですが、60mm厚以上のラジエータであれば圧損が大きくなるため静圧が高いものを選ぶのもポイントになります。
この記事が本格水冷erの方に少しでも役に立ったら幸いです。
シリーズ記事
・自作PC 初めての本格水冷ガイド④ ソフトチューブループの作業手順
・自作PC 本格水冷ガイド Extra ハードチューブループの作業手順
・自作PC 本格水冷ガイド ExtraⅢ ラジエータファン Push? or Pull?