PCゲームを快適に遊ぶために必要なゲーミングキーボードは、昔からあるPC周辺パーツのサプライ・デバイスメーカーだけでなく、ここ数年でASUS、GIGABYTE、MSIといったボードメーカーも参入するほどホットな市場です!そんなゲーミングキーボード界隈では定番的にメカニカルスイッチを採用したモデルが用意されています。
今回はそのメカニカルスイッチについて特徴を紹介しつつ、なぜゲーミングキーボードに適しているのか、私見を綴っていきたいと思います。
メカニカルスイッチとは
通常、PC本体を購入したときに付属してくるキーボードや、ノートPCに内蔵されている低背のキーボードは、どちらもメンブレンというスイッチタイプで、1枚のメンブレンシートが底に敷かれ、その上にすべてのキーが載っています。底までキーを押し込むことで接点に接触して入力を検知する仕組みで、キーを押し返す弾力にはラバーカップというゴムが使用されています。
一方、メカニカルはキーの一つ一つが独立したスイッチになっていて、接点となる板バネやスプリング、軸によって構成され、まさに機械仕掛けのスイッチといえます。
接点が底ではなく、軸の側面にあるので底までキーを押し込まなくても入力が検知できる仕組みで、弾力には金属スプリングのバネが使用されてます。
側面にある接点の位置や板バネの形状、板バネを押す軸の形状などを変えることで、様々な特性を出すことができ、豊富なバリエーションが存在します。
スイッチのブランド・メーカー
Cherry
メカニカルキーボードに古くから採用され最も親しまれている、王道ともいうべきスイッチがドイツCherry製「CHERRY MX」。個人向けキーボードだけなく、POSレジや業務用向けキーボードにも採用されているみたい。
スイッチの供給がメインなものの、キーボードとしての完成品も2018年11月に発売しています。
スイッチの特性は主に軸の色で分類されており、定番のRed、Black、Brown、Blue 4種以外にも、Green、Clear、White、Linear Grey、Tactile Greyや、新たに増えたSilent Red、Silent Black、Speed Silver、Nature White、さらには背の低いLow Profile Red、Low Profile Speed Silverなど、かなりの種類があります。
2013年ごろまではゲーミングキーボードに採用されるメカニカルスイッチのほとんどはこのCHERRY MXで、特にBlue、Brownの採用が多かったように思います。
Kailh
次に有名なのは中国Kaihua製「Kailh」です。正式な発音は不明ですがケイル or カイルと言われています。Cherry同様スイッチの供給がメインで、定番のRed、Black、Brown、Blue以外に、Speedシリーズ、BOXシリーズ、Proシリーズ、Low Profileシリーズなど、豊富な種類が出ています。
デバイスメーカー独自スイッチ
2014年以降はデバイスメーカーがスイッチメーカーと協業し、独自に開発するようになりました。大手ブランドであるRazerをはじめ、logicool、ROCCATなどから独自スイッチが出ています。
スイッチの特徴
キーを押下する際のストロークの打感(感触)は大別すると3つあります。
リニア
クリックした感触が無く、キーを押し下げるほど徐々にスイッチが重くなっていくタイプで、滑らかな押し心地です。
タクタイル
キーが反応する深さ(=アクチュエーションポイント)直前にクリック感があります。言葉で説明するのは難しいですが、キーを押し下げてから徐々に重くなり、圧力点(=プレッシャーポイント)と呼ばれる山場を越えると急に軽くなるためカクンと沈み込みます。
※プレッシャーポイントはタクタイルではタクタイルポイントとも言われます。
クリッキー
アクチュエーションポイント直前にクリック感があり、カチっと明確なスイッチ音が鳴ります。クリック感とスイッチ音が相まって、最もメカニカル感を堪能できます。
よくタクタイルと比べて「より強いクリック感がある」と説明されていることもありますが、重いポイントと軽いポイントの緩急差はタクタイルのがあります。おそらくスイッチ音が大きいことから強いクリック感を連想するのかもしれません。
その他に押下特性を表す以下の要素があります。
アクチュエーションポイント
アクチュエーションポイントはキーが反応する深さ or 作動点 or 接点のことで、標準的には2.0mm前後です。
上で説明した打感の分類のように、触ればすぐわかるというほどの違いは出にくいですが、アクチュエーションポイントも近年はバリエーションの要素になっており、入力し始めてから素早く反応できるよう短接点のスイッチが登場しています。
ストローク
底までの深さのことで、標準的には4.0mm前後ですが、同一キーを連打した際に戻りの距離が短いほうが次の入力までの時間が短くなるので、短いストロークのスイッチが登場しています。
押下圧
アクチュエーションポイントの必要荷重を表すことが多いですが、プレッシャーポイントとの平均荷重で表記されたりすることもあるので、同じスイッチなのに商品やサイトによって表記が異なることもあります。
ゲームではWASDキーを押しっぱなしにすることが多く、軽い方が好まれる傾向にあります。
スイッチ一覧
国内で入手しやすい完成品キーボードに採用されているものを表にまとめてみました。
ブランド/ メーカー |
軸種 | 特性 | P.P. 押下圧 |
A.P. 押下圧 |
ストローク | アクチュエーションポイント |
---|---|---|---|---|---|---|
CHERRY MX | Red | リニア | - | 45g | 4.0mm | 2.0mm |
Black | リニア | - | 60g | 4.0mm | 2.0mm | |
Brown | タクタイル | 55g | 45g | 4.0mm | 2.0mm | |
Blue | クリッキー | 60g | 50g | 4.0mm | 2.0mm | |
Speed Silver | リニア | - | 45g | 3.4mm | 1.2mm | |
Silent Red | リニア | - | 45g | 3.7mm | 2.0mm | |
Low Profile Red | リニア | - | 45g | 3.2mm | 1.2mm | |
Low Profile Speed Silver | リニア | - | 45g | 3.2mm | 1.0mm | |
Kailh | Red | リニア | - | 45g | 4.0mm | 2.0mm |
Black | リニア | - | 60g | 4.0mm | 2.0mm | |
Brown | タクタイル | 55g | 45g | 4.0mm | 2.0mm | |
Blue | クリッキー | 60g | 50g | 4.0mm | 2.0mm | |
Speed Silver | リニア | - | 40g | 3.5mm | 1.1mm | |
Low Profile Red | リニア | - | 45g | 3.0mm | 1.5mm | |
Low Profile Blue | クリッキー | 60g | 55g | 3.0mm | 1.5mm | |
Razer | Green | クリッキー | 60g | 50g | 4.0mm | 1.9mm |
Orange | タクタイル | 55g | 45g | 4.0mm | 1.9mm | |
Yellow | リニア | - | 45g | 3.5mm | 1.2mm | |
logicool | Romer-G Tactile | タクタイル | 55g | 45g | 3.2mm | 1.5mm |
Romer-G Liner | リニア | - | 45g | 3.2mm | 1.5mm | |
GX Blue | クリッキー | 60g | 50g | 4.0mm | 1.9mm | |
ROCCAT | Titan | タクタイル | 不明 | 50g | 3.6mm | 1.8mm |
※P.P.押下圧:Pressure Point 押下圧、A.P.押下圧:Actuation Point 押下圧
メカニカルスイッチがゲームに適していると思うところ
ここからはゲームにおいてメンブレンよりも適していると私が感じる要素を上げていきます。
①反応性
メンブレンは接点が底にあるため、ストローク=アクチュエーションポイントですが、メカニカルはストロークの途中にアクチュエーションポイントがあり、スイッチ一覧を見てもわかるとおり、押し始めてからいずれも2mm以内で反応してくれます。
押しっぱなしのケースでは、疲労で指が少しでも浮いてしまった場合、メンブレンでは入力が途切れてしまいますが、メカニカルでは受け付けてくれます。
ただ、近年登場したSpeed系やLow Profile系ではアクチュエーションポイントが短すぎて、意図しないキーに誤って触れてしまった場合に入力が検知される、いわゆる誤爆のリスクが増えるため、短いほど絶対に有利ということはなく、入力の正確性など個人によるところもあると思います。
②押下圧の軽さ
メンブレンは55gや60g以上のものが多いですが、メカニカルではリニアやタクタイルでは45gが多く、クリッキーでも50gです。
なお、CHERRY MX BlackとKailh Blackは押下圧60gと重いので、ゲーミングキーボードに採用されいるケースは稀となっています。
③ストロークの安定感
メンブレンでは押す場所によって押下圧にばらつきがあり、淵を押してしまうとラバーカップが歪んで極端に重くなったりもします。一方のメカニカルはどこを押しても垂直にキーが下がる構造になっているので、多少指がズレてもいつもと同じ感覚で押すことができます。
②に挙げた押下圧の軽さと合わせて長時間プレイでの疲労やストレスを軽減してくれます。
④耐久性
メンブレンは耐久性にバラつきがあり、商品サイトに耐久性を記載してないものが多いです。(稀に高耐久を謳うモデルで2000万~3000万回というのもあります)
メカニカルはCHERRY MXやKailhなら5000万回、Razerの最新スイッチは8000万回、logicoolは7000万回、ROCCATは5000万回と、かなりの高耐久です。
またメンブレンはラバーカップのゴムが経年劣化で変形したりして、キーとしてはまだ使えても、打感が変わってしまうこともあります。特に良く使うWASDキーなどは戻りが悪くなったり、固くなったり、逆に柔らかくなったりと、キーごとに打感がバラバラになったりもします。一方、メカニカルは硬質な材料で構成されてるので、長年使用しても打感が変わりにくいです。
⑤本体重量(安定感)
メカニカルはスイッチを載せているプレートや本体フレームの部分も金属素材でできているものが多く、重量は1kg以上のモデルがほとんどです。重いほうが激しい操作でもキーボードがズレることなく安定し、プレイに集中できます。
ただ、メンブレンでも底に重りを入れたりすれば重めのキーボードは作れますし、ユーザ側で固定する工夫はいくらでもできるので、先に挙げた要素に比べるとそこまでの優位性はないかもしれません。
まとめ
以上の5つの理由から私はメカニカルスイッチがゲームに適しているのではないかと思いますが、別にメンブレンがダメだというわけではありません。
反応性、押下圧の軽さ、ストロークの安定感については、慣れや好みの問題ともいえますし、耐久性についてはメンブレンのが安価に購入できるので、不調や故障がでたら買い替えれば良いという考え方もできます。
また、特徴として紹介はしませんでしたが、メカニカルは硬質素材で構成されているがゆえに総じて打鍵音が大きい(静音スイッチを除く)ため、動画配信やボイスチャットで打鍵音を拾い易く、その点は注意が必要です。
そして、ゲーミングにあると嬉しい機能のNキーロールオーバー・アンチゴースト、ポーリングレート(レポートレート)1000Hz、Winキーロック、キー入替、マクロ機能は、いずれもメンブレンキーボードでも搭載している商品があるので、結局のところは好きなものや慣れたものを使うのが一番ではあります。
もしメカニカルを検討している方がいたら最後に一言だけ。
「高額なぶん良いキーボードを手にしたという所有欲も満たしてくれるし、なによりそれがゲームへのモチベーションも上げてくれるので買って損はない!(はず)」
と悩む背中の後押しになればといいなぁというところで本記事の〆にしたいと思います。